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GALLERY MoMo Ryougoku では、7 月2 日(土)から7 月30 日(土)まで池田幸穂の個展「虹を煮つめて、風景をつづる」を開催いたします。
1986 年東京生まれ、2009 年武蔵野美術大学を卒業後シェル美術賞展や東京ワンダーウォールなどに入選、日本庭園や動植物などの自然、あるいは身近な人物などをモチーフに、時に独特な視点から捉えて描写し、中間色による優しく柔らかな色彩感は見る人を和ませ、不穏な状況でさえも心地よく癒される作品を展開しています。
当初、池田は人物も風景も客観的な対象物として描いてきました。しかし社会の中に身を置き、震災後の東北の大地を踏みしめ、日々自然や社会に翻弄されながらつつましくも強く生きる人々と出会い心を開くことで人との関係が繋がるのを実感し、自他を超えて痛みや弱さを共有し、作品を通して相互に励まし生きようとする意識を持って制作してきました。
今展では、コロナ禍でのステイホームの経験を基に、食料の「貯蓄」、「動植物」の営み、そして全ての生命の「移動」の3つをテーマに展覧会を構成する予定です。
便利な生活の中で、突然制限された生活は、特に都会に住む多くの人々に私たち自身の生活を見直す機会となりました。また、池田は人間だけではなく、虫や動物、植物にも目を向け、その影響が人間だけでないということを強く認識しました。私たちにとって苦境とも言える状況の中で、ポジティブな面に着目し、「生きる未来を明るく照らす光を強く表現したいと思うようになった」と言うように、以前の作品よりも陰影を強調させ、立体感や奥行きを出すことで、池田が長年描き続けている平穏な世界が前面に表現されています。
普段はなかなか気づくことのできない身近な「虹」を発見し、その風景を池田独特の世界観に落とし込んだ風景を、ご高覧いただければ幸いです。
アーティストコメント
これまで「風」「春・夏」をテーマに個展を開催しました。今回は、秋と冬の景色をベースに「貯蓄」、「動植物」、「移動」の3 つをテーマに個展を構成します。
コロナ禍のステイホームの間、気軽にスーパーに行けなくなり、溢れるインスタントの食品がまだあっても、冷蔵庫の食料が減っていき、食べ物を購入できないという環境に強い不安を覚えました。しかし、豪雪地帯に住む人たちは、外に簡単に行けない期間、様々な保存食で冬を乗り切るので、こうしたステイホームでも慌てないというのを知り、小さな冷蔵庫と、近所のスーパーマーケットが命綱である私にとって、自分がどれだけ弱い存在なのか痛感しました。
また、津軽平野にたわわに実ったりんごたちと、米米ロードの美しいお米を見渡して、秋の実りを表現したいと思いました。人々が蓄えた食糧は、動物たちの食物でもあり、動物たちの食糧をお裾分けしてもらっていると考え、その循環や移動をテーマに物語がどんどん膨らみ、キャンバスに描きたい景色がとめどもなく広がっていきました。
ステイホームで感じた食料が減っていく不安を感じている一方で、人の行動が制限され水や空気がきれいになったというニュースを見て、生き物たちは居心地が良くなり、彼らの世界は光に満ちているかもしれないと、想像しました。ステイホームが明け、子供たちとの交流を通して、動物や昆虫の世界にさらに興味を持ちました。苦手だった虫の世界に浸り始めて、沢山の図鑑を眺めているうちに、あまりにも美しい甲虫を知り、釉薬をかけて作った玉虫の様な焼き物が、その甲虫とそっくりだと思いました。
空にだけある虹ではなく、様々な動植物が持つ美しいカラフルな色彩を煮つめて、溶かして、物語を紡ぎ、四季の変化を言葉で綴るように、風景をキャンバスに残し、新しい視点から見る世界を描こうとしています。
2022 年 池田幸穂