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GALLERY MoMo Ryogokuでは4月9日(土)から5月7日(土)まで、村田朋泰の個展「Small Landscape」を開催致します。本展では、現在村田が制作中の、2011年の東日本大震災と福島の原発事故を契機に、生と死に関する記憶の旅をテーマにした祈りのシリーズ3作目と4作目の間の4と1/2本目になる映像作品制作の様子を公開いたします。
このシリーズは5つの物語で構成される予定で制作され、第一作目となる『翁舞 / 木ノ花ノ咲クヤ森』は福島の原発事故をテーマに、第二作目の『天地』は活断層でできた日本列島をテーマにし、第三作目となる『松が枝を結び』は震災をテーマにし、日本列島の起源及びアイデンティティを探る叙事詩的映像作品を制作してきました。今回のシリーズ4作目となる映像作品は、古事記の一節カグツチ神話をベースに、縄文時代を背景として制作しています。
博物館や資料館の模型がミニチュアというだけで魅せられてしまうと言う村田は、今回のシリーズで、今まで1/7スケールで制作していたパペットやセットを1969年代のミニチュア制作で用いられた1/50スケールに変更しました。パペットは、小さくなり過去作品の中で村田が見せてきた細やかな表現はできなくなったものの、単純化され感情が抽象化されるかわりに、全体を俯瞰した風景は映し出しやすくなり、「儀式」という行為、またその全体の世界をフォーカスしようとしています。
今回の作品は、古事記で「火の神カグツチがその父親イザナギに殺され、身体が8つの山の神になった」と言う記述からインスピレーションを受け物語を展開させています。日本の物語の原点という視点から初期より村田が関心を寄せる「古事記」、「日本書紀」などの神話や昔話では、登場する人物に「肉体的な奥行きがなく、手足が切り取られても血が流れないし、外傷ができるわけでもない。『形代(かたしろ)』のように平面で、破れたら縫い合わせたり、貼り付けたりすればよい。そこには重苦しい感情も性格もなく、平坦に淡々と描かれている。」と述べ、今までと違うスケールで撮影することで、そうした神話が持つ抽象的な感覚を忠実に描けるのではないかと考え、「ミニチュアのミニチュア」での撮影を試みています。
本展では、村田の最新作の撮影の様子をギャラリーに定点カメラを設置し、ギャラリーだけでなく、Youtubeでの生配信を利用し公開いたします。映像作品制作の過程やミニチュアのセット、絵コンテ、ミニチュアセットの設計図やアイディアの元となった資料など制作のインスピレーションも合わせて展示する新しい試みです。
普段、見ることのできない制作の裏側や、村田の制作のプロセスが垣間見える展示をご高覧いただければ幸いです。
村田朋泰は1974年東京都生まれ、2000年東京藝術大学の卒業制作作品「睡蓮の人」が、2002年第5回文化庁メディア芸術祭に てアニメーション部門最優秀賞。また、修了制作作品「朱の路」が第9回広島国際アニメーションフェスティバルで優秀賞を受賞しました。さらにMr.Children のプロモーションビデオを手がけ一躍知られるところとなりました。2006年には目黒区美術館で、 2008年には平塚市美術館で個展を開催し、NHK子供向け番組プチプチアニメでは「森のレシオ」を放映し、幅広い層から支持されるアニメーション作家として活躍しています。2015年には、ドイツのシュトゥットガルト映画祭にて「翁舞 / 木ノ花ノ咲ヤ森」が上映され、2018年に開催された『アヌシー国際アニメーション映画際』に映像作品と共に、インスタレーション作品も出展 し好評を得ました。また、初期の作品から最新作をまとめた「夢の記憶装置」が全国で上映されました。 2021年には多摩美術大学美術学部芸術学科の授業の一環として開催した展覧会「今年は、村田朋泰。―ほし星 ホシ―」展では大規模なインスタレーションを展開。2022年にはPLAY! MUSEUMで開催された「どうぶつかいぎ展」に参加いたしました。
アーティストコメント
博物館や資料館で見られるミニチュア模型は、ミニチュアというだけで見入ってしまう。
ミニチュア模型は大体1/48スケールで、 人型の模型も設置されており、今にも動き出しそうなポーズを取っていて愛おしい。
私がこれまで制作してきたアニメーションのミニチュアセットのサイズはおおよそ1/7スケールである。
人形の表情や感情を現す には私にとって最適な大きさと言える。
1/48スケールでは感情は抽象化されるかわりに俯瞰した風景によって全体( 世界) を把握しやすくなる。
「祈り」シリーズ4と1/2となる本作は、古事記の一節を元に縄文時代を背景として制作しており、シリーズを通して時間が逆行していく。
古事記はさまざまな出来事を象徴的あるいは抽象的な表現で描かれており、そこには感情移入の余地はない。
これまで 制作してきたミニチュアセットのスケールを小さくすることで抽象化された物語を映像化できるのではないかと考えた。
○ミニチュアのミニチュアについて
スケールを変えることで物語の原初化になりうるとのではと考えたきっかけは、15年ほど前に物語について調べていたとき出会ったヴォリンゲルの「抽象と感情移入」という本から着想した。
この本では、芸術は(外的な人為的なものも含んだ) 自然環境の影響からはじまり、自然と調和したときは有機的な動的な生命を描き感情移入するものと、厳しい自然のときは抽象的無機的な静止した世界を描く、2極の間で生まれるものだと言う。
『昔話は出来事や人物を、名ざすだけという技法で語る。どのように事件が起きたかを、説明しない。「殺した」「大きな森」「暗い森」などと名ざすにとどまる。』( 物語理論講義/藤井貞和著)
1/50スケールは1960年代スケールのプラモデルが多数作られていた (のちに1/48スケールになる)。世間一般から見ると馴染みのあるスケールだ。
人形サイズは1/7だと20~25センチ、1/50だと3センチくらいになり、スケールが小さくなると可動する箇所は極端に少なくなり、細かい表現はできない。
全体を見渡せる代わりに演出は単純化される。 神話や昔話に登場するキャラクターも肉体的な奥行きなく、手足が切り取られても血が流れないし、外傷ができるわけでもない。「形代( かたしろ)」のように平面で、破れたら縫い合わせたり、貼付けたりすればよい。そこには重苦しい感情も性格も、平坦に描 かれている。
スケールを変えることで、古事記に書かれていることばそのままを具現化することができると仮定した。
2022年 村田朋泰
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